泥船てすかとりぽか

FC2ガ沈ムマエニ逃ゲダシマシタ。

『日本の海の幽霊・妖怪』

漂流は厭だ。

絶対に陥りたくない最悪の状況をいろいろ思い巡らせることはありますが、海の上で漂流することになる以上に厭なことはなかなか想像できないです。「ミイラ船」の話とか読んじゃったせいもあるけど、どんなホラー小説なんかより漂流に関するお話は厭だ怖い厭だ厭です。そんな厭さから逆にネット上で漂流譚ばかりを貪り探したこともありましたが、それほど多くの話は出てきませんでした。

そんな漂流に関する極限状態のリアル生き地獄を9例も載せている本がこちら。

日本の海の幽霊・妖怪

1981年に急逝した在野の民俗学研究家、関山守弥の遺稿をまとめあげた一冊。その著者が生涯をかけて文献を渉猟し、また自ら海浜に足を運んで集めた数十例にものぼる「海に関する怪異譚」を収録しています。

単に幽霊に関する事柄だけでも、船幽霊から霊風、シキ幽霊、柄杓貸せ、海坊主、磯女、牛鬼、濡れ女、共潜き等の伝承・目撃例を全国各地で異なる呼び名や成り立ちとともに淡々と語っています。他にも、先に述べた漂流者による記録から船人の信仰、死霊鎮慰の呪法、怪異から伝承文学への昇華にいたるまで。

あまり民俗学の世界でも有名ではないこの著者ではありますが、私見もそこそこに膨大な量のフォークロアをガトリング砲の如く並べたてるテクストを眺めているだけでも、なにか畏怖いモノを感じざるをえません。おそらく、国内でこれだけ海の怪異について集めた文献は他にないんじゃないでしょうか。

てゆか、海の幽霊話は怖いです。

クトゥルー神話とかそういうことじゃなくって。子供の頃、『まんが日本昔ばなし』で観てトラウマになった話も海の船幽霊のお話でした。探してみたらYoutubeにあったので貼り付けてみました。「船幽霊」って話もあったけど、自分の探してたのはそっちじゃなくってこっちでした。てゆか、『まんが日本昔ばなし』の怖さはパネェっす…。

まんが日本昔ばなし 「杓島」

京都では「シャクシクレ」、福島では「イナダカセ」、長崎では「アカトリカセ」、島根では「長柄貸せ」、愛媛では「柄長くれ」、四国では「柄杓貸せ」と呼ばれるこの幽霊は、姿形や呼び名こそ各地で違へても、いずれも海の中から「柄杓を貸せ」と呼びながら現れる幽霊のことです。

その声に従い柄杓を渡すと、たちまちその幽霊も柄杓も無限増殖し、船に海水を入れて沈めてしまうということ。また、対処方法は「底を抜いた柄杓を渡す」ということも、これまた全国共通だったりします。全国どころか、これと同じ伝承が韓国から中国、果ては東南アジアにまで存在することには驚きです。

他の種類の船幽霊に比べると、リアリティに欠ける幽霊だとは思いますが、当時の船にはその対処方法である「底を抜いた柄杓」が必ず常備されていたというのはどうも本当らしいです。実際、自分も茨城県のある海辺の神社で、夥しい量の「底を抜いた柄杓」が奉納されている光景を見た時にはサブイボが立ったものです。

何よりこの「柄杓貸せ」は、海の幽霊の特徴である「死者が生者をひっぱる」という特徴を最もわかりやすく表してるって点が興味深いです。こういう特徴を持つ幽霊のことを「引亡霊(ひきもうれい」と言うそうですが、陸の幽霊に比べて海の幽霊のひっぱり率の高さは比較にならないほどです。

それだけ、海の上で生きるということは運否天賦に任されていて、それこそ陸上とは比較にならないほどに神様や幽霊とは近い世界だったってことなんでしょうね。なにせ、ちゃんとした航海術が無かった頃は、山が見えなくなった場合はおみくじで進路を決めてたそうだから…。(江戸期には日本にも「針」って呼ばれる磁石はあったけど、そんなものよりおみくじの方が信頼されてたらしい。)

そんな話がたくさんたくさん載ってるこの本の中でも、やっぱり特筆すべきは9例にものぼる漂流のお話。実際、何ヶ月も海上を漂流して、精神的にも肉体的にも人道的にも極限を遥かに超えた体験をしながら、奇跡的に生還した人の手記は凄まじい実話。100歩譲って実話じゃないとしても、どんな作り話より怖ろしい。

最近、本当に怖いホラー映画がないーとかヘコんでた自分にはガチで好い本でした。
そして、久々に『まんが日本昔話』のこわい話探しをしてみようかと思いました。