てすかとりぽか

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『第9地区』 暗黒E.T.神話

※このページには作品のネタバレを含みます。できれば作品鑑賞後にご覧ください。
※このページは筆者の貧弱な記憶力に基づく内容のため、実際の内容と齟齬がある場合があります。
※別に観る気ねえから。って人は何も気にせずご覧ください。ご覧くださらなくてもいいです。

第9地区

2010年のアメリカ映画。ニール・ブロムカンプ監督。

ネタバレありはDVDが出てから書くと言っていたのに、他の人を批評を見ていたら結局あれこれ考えてしまったので。ていうか、他のみなさんすごく真面目にこの作品を観ていて吃驚です。南アフリカの人種隔離政策(アパルトヘイト)やパレスチナ問題を風刺した、寓話的社会派ドラマだとか考察してる人が多いみたいです。

製作P・ジャクソンによる悪ノリ全開の“暗黒『E.T.』神話”だと思ってた自分はどうやら異端なのかも。

軽く物語をなぞりますと。ある日とつぜん、南アフリカ共和国ヨハネスブルグ上空に現れた巨大UFOには、疲弊しきった異星人たちがたくさん乗っていました。どうやらUFOは故障しているらしいので、地球側は「人道的支援」の名の下に彼らを地上に降ろし、隔離地域を設けて住まわせることにしたのでした。

ちなみに、ヨハネスブルグの治安の悪さについては"ヨハネスブルグのガイドライン"をご覧ください。
(例:中心駅から半径200mは強盗にあう確率が150%。一度襲われてまた襲われる確率が50%の意味。)

この物語の舞台は、そんな「第9地区」ができてから20年が経ち、「エビ」と呼ばれる難民エイリアンと市民との軋轢も強まった時期のお話。居住区は完全にスラムと化し、彼らも街中でゴミを漁り、盗みを働いて生活するような状況。中にはいたずらに電車をひっくり返して市民を困らせるエビも出てくる始末。

E.T.もアメリカじゃなくて、大阪の西成とかに落ちてきたら、きっとこうなってたに違いないです。

当然、市民も彼らの排斥運動の機運を強めていきます。あんな奴らは追い出せ!エビに人権なんか存在しない!と。まるでドキュメンタリー映画のように辛辣な描写は、同じ南アで行われた人種隔離政策と被ってか妙に真実味があります。これは確かに悪ノリ映画ではなく、ちゃんとした社会派作品にも見えるかもです。

否。断じて否。ここは笑うところですよ。ありえねーから。エイリアン映画に人権問題とかありえねーから。

そして、スラムにつきもののギャングの暗躍。ナイジェリア人のギャングたちは、エビたちに食料っていうかキャットフード(笑)を与え、売春を斡旋(笑)することと引き換えに、彼らの持つエネルギー兵器を手に入れ始めます。その兵器は結局人間には扱えない代物であるにも関わらず。エビ達も滅茶苦茶ボッタクられてますけど。

エビ「パワードスーツ、猫缶1万個でどうだ…?」
ギャング「1万は無いな。猫缶100個だな。」
エビ「い…今すぐもらえるのか?」

そんな中、地球側もエイリアン対策会社「MNU」を使って、エビ達を強制収容所送りにしようと画策します。この計画の責任者に任命された主人公ヴィカス。エビの家を一軒一軒回って「立ち退き書」にサインをお願いしていきます。「コンコン…ごめんくださーい!」「…何か?」ってエビが出てくる場面がもうシュールすぎて腹筋崩壊。

でも、ヴィカスの後ろにはアサルトライフル構えた兵隊がいて。
素直にサインに応じず、逆らいでもしようなら射殺。
どんな『闇金ウシジマくん』だよっ!!

そんな調子で、『凸撃!隣のBAN御飯』を続けるうちにヴィカスもどんどん悪ノリしていき。エビの卵から栄養管を抜きとっては「中絶してやったぜ!」とか、火炎放射器で家を焼き払う様はまさに「汚物は消毒だ〜!」と、順当に死にフラグを蓄えて行きます。そして、とあるエビが隠し持っていた謎の液体を顔に浴びてしまい…。

因果応報とはいえ、ここからは聞くも涙語るも涙のヴィカス阿鼻叫喚パニックシチーライフ…。

まぁ、後の話は実際映画を観ていただくとして、色々気になった点について。まず、エビの子供が可愛いすぐる。完全に人外のバケモノなのに可愛い。この既視感は、まさしくP・ジャクソンが『ブレインデッド』の赤ちゃんゾンビや『ミート・ザ・フィーブルズ』の暗黒セサミストリートで魅せた「グロかわいい属性」に違いありません。

エビちゃん海老蔵につづいて、エビバーガーのCM出演も夢じゃありません。

先日書いたように、一番似ている映画が『バッド・テイスト』だってんなら。今作は、P・ジャクソンによる自身の集大成ともいえる作品なんではないでしょうか。しかも、『ロード・オブ・ザ・リング』とか最近のソレではなく、それ以前のB級マニアック映画製作者としてのP・ジャクソンによる、王政復古の大号令ではないんでしょうか。

まさに、B級映画王による『王の帰還』なのではないでしょうか!!

あと、個人的に一番好きなシーンは、当然パワードスーツ…ではなく、その圧倒的強さと防御力を持つパワードスーツを、地球側の武器が放った一発の銃弾で膝まづかせるシーン。一瞬だけど、画面に映ったその御姿はバレット・ファイアーアームズ社製の50口径アンチマテリアルライフル(対物狙撃銃)ではありませんか!?

ロボコップ』の悪役クレメンス一味がもってた「コブラ砲」って言った方が通じますかね。

自分がゲームの『MW2』で砂やる時にはもうこの銃一択でした。だってかっこいいんだもん。(弱いんだけど。)というか、今作は何気に登場する武器の種類が多彩で、ミリタリ映画としても十分楽しめます。撃たれた方の人体破壊描写も、これまた「人体破壊ギャグ」のパイオニアでもあるP・ジャクソンの妙技が光っております。

そして何より、あの素晴らしいラストシーン。考えうる限り、あれ以上の好いラストはないと思います。

ヴィカスが無事目的を果たす、または死ぬ。様々な結末を予見させつつ、導かれた選択は完全に自身の涙腺を破壊。なんだよこれ…悪趣味全開糞うんこ映画じゃなかったのかよ…。これが、オスカー最多受賞作品監督を経て大成したP・ジャクの本気なのかよ…。とんでもない映画観ちゃったよ…。ほんとマジで…。

そう思ったのが自分だけはないということは、鑑賞後のツイッターに溢れる他者の呻きからも感じ取れました。

自身がツイッターを初めてまだ3か月も経っていませんが、今作ほど鑑賞後に感情を抑えきれず、なかばお祭り状態になる人が多かった劇場公開作品を他に知りません。一般的な評価は同日封切の『シャッターアイランド』の方が高いにも関わらず、自身の周囲は『第9地区』に関するコメント一色に染まっていました。

そんなお祭り騒ぎの中、あのラストは幾ばくかの「?」を残していることにも気づかされました。

その「?」に関しては、今日1日ずっと考えてはみて、なんとなく答えがまとまってきたようにも思います。んでも、今日の日記は既に長くなりすぎてしまったので、続きはまた明日以降書きたいと思います。まさかの感想日記三部作です。トリロジーです。まー、映画感想文300本記念としてお許しください。

※以下、2010年4月17日追記。

というわけで、感想の続々編“『第9地区』 ラストシーン考”掲載しました。
今度こそ確実にネタバレ含みますので、絶っ対に映画観てからみてください。