てすかとりぽか

最近はポケモンのことを書く場所です。

『南極料理人』 狂気の山脈にて

タイタンの戦い』がすごくボンクラ映画で好いそうなので観に行きたいけど咳が…。

南極料理人

2009年の日本映画。沖田修一監督。

あらすじ。南極奥地で未知の生物の死体が発見された。世紀の発見に沸く調査隊だったが、折からの強風のため外界との連絡が途絶してしまう。別働隊が調査に向かったが、キャンプは完全に壊滅し、生存者も死体の姿もなくなっていた。ただ、未知の食材をもって調理された、名状しがたい美味を誇る料理だけを残して…。

というネタがぐぐるといっぱい出てきます。みんな「南極」で考えることは一緒なんですね。

でも、ソレも当たらずも遠からずといった話。南極大陸のドームふじ観測拠点(標高3810メートル)という過酷な環境下にあっても、みんな素敵な料理を食べて心も体もほっこり的な、結構ユルいコメディを想像はしてたんですけど。実際ユルいのは最初の方だけで、途中からじわじわと隊員たちが狂気に蝕まれていくのは本当。

一日中太陽が昇らない冬に入り、食料から「ラーメン」が尽きた時点からが、この物語の真骨頂。

外の世界から完全に隔絶された零下45度の世界。ペンギンはおろかアザラシや細菌すら生存できない過酷な環境での越冬作業とそれに伴うストレスは、まさに『シャイニング』よろしく隊員たちの精神の均衡を奪い去って行く。あと400日以上ラーメンが食べられないと知った刹那に見せる、ラーメン好きの気象学者の絶望の顔…。

夜間、厨房に忍び入り黙々とバターを貪り喰らう隊員と、そのバターを毟り返す料理人の確執…。

超長距離恋愛の電話(1分750円)の恋人から別れ話を切り出され、素っ裸で雪原に出て行ってしまう者…。限られた水をシャワーに使ってしまった隊員と、ジャック・ニコルソンよろしく棍棒で彼を打ち殺そうと追いかけ回す別の隊員…。首が…首が正面を向かないんだ…。我々ハ南極迄飯ヲ食イニ来テイル訳デハ無イ…。

そして、第43次南極地域観測隊に端を発する「南極観測第六期五カ年計画」とは?

「第二期ドーム計画」と通称され、過去80万年以上に遡るアイスコアを採取し、第四紀の地球規模の気候と環境変動の実体を解明することを目的にしたという表向きの計画に反し、繰り返される惨劇。氷床深層掘削口から3,028メートルの深淵へと落ちていく、主人公の娘の形見でもある「小臼歯」を通じて語られる真実…。

…ちょっと誇張しすぎました。そんなに怖い話じゃないです。むしろ、ふつーに笑える話です。

いや、やっぱり他人事だから笑えるんですね。少なくとも彼らは笑いをとろうとして、南極までやってきて2年にも渡る過酷な任務をしているわけではないのですから。そんな様子を、嫌味なく淡々と描いているだけでコメディにしてしまうなんて、原作者が凄いのか脚本がいいのかはわかりませんが、誰にでもオススメしやすい邦画です。

ただ、行く前は物心もついてなかった息子(赤ん坊)が、帰ってきたらもう子供になってるってのは軽い恐怖だわ。

『浦島太郎』みたいな説話の例を挙げるまでもなく、今作は「異世界ファンタジーもの」と類似した構造を持つノンフィクションという特異な物語です。しかも海外モノなのに、日本人しか出てこないという面でも、他に類を見ない作品です。こういうテーマを扱ったエッセイは最近多いようなので、もっと映画化されるといいのにねと。

これとか。