てすかとりぽか

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『リアル・スティール』 ジャパニーズクールへの畏敬

リアル・スティール

2011年のアメリカ映画。ショーン・レヴィ監督作品。

テレビCM見てこんな話だろうなと思ってた内容と1ミリも違わない内容でしたが、ネタバレ注意で話します。

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(C)DreamWorks II Distribution Co. LLC

近未来、ボクシングは人間ではなくロボットが闘う競技になっていた。ロボットの賭け試合で生計を立てていた元ボクサーのチャーリーの元に、母を亡くした息子マックスがやって来る。ゴミ捨て場で、マックスはATOMという旧型ロボットを見つけ持ち帰ってきた。マックスはATOMをチューンナップし、試合に出場する事を決意する。

家族愛、ロボット愛、スポーツ愛、ハリウッド的“胸アツ要素”の詰め合わせのような映画です。

ここまでどストレートな“胸アツ”映画はほんと久々ですね。どストレートなだけあって意外性はゼロ!なし!皆無!なのですが。別にATOM黒歴史の遺産的な設定でもなければ、ナノマシンばら撒いて文明ごと破壊するようなロボットでもなかったですし。それでも、この怒涛の“胸アツ”は劇場で体験できて好かった。

でも、個人的にそんな“胸アツ”さだけならこんなに本作を推さないですよ。

なんていうか、本作の根底から滲み出ている製作者らの“日本への畏敬の念”というか“「ジャパニーズクール」的なモノへのコンプレックス”みたいなものに鳥肌が立ったんですね。そのことが端的に読み取れる場面について、いくつか例に出してみたいと思います。まず、マックスが日本語を話せる理由を問われた時の台詞。

「テレビゲームで覚えた。」「日本製は最高にクールなんだぜ!」

ちょっとうる覚えなんだけどそんなこと言ってました。ここ「日本製はクールなんだ。」って台詞は別にいらないですよね。てか、日本産のゲームの市場規模が世界の2割以下に落ち込む中、“日本のゲームはクール”って認識は相当マイノリティです。そこを殊更強調したこの台詞に、製作者の想いのようなものを感じたのです。

「『フォールアウト』よりも、『ファイナルファナタジー』の方がクールなんだぜ!?」という想いを。

さらに、最強ロボットである“ゼウス”のクリエイターことタク・マシドさん。冷静・無口・技術・カネ・日本訛りの英語(『サウスパーク』のチンポースシのご主人みたいな)と、ロボットモノのラスボスに相応しいほどのジャパニーズクールキャラです。キレると正拳でディスプレイを叩き割るというアツい面もお持ちです。

そんな“いけすかない”敵をアメリカ的な“暑苦しさ”を持って倒す、そこにカタルシスがあるんですね。

でも、そうした設定の根底から滲み出てるのは、やっぱり“日本に対する畏敬の念”なんですよね。『宇宙戦争』で「日本人が最初にトライポッドを倒した」みたいな、何か「ロボットに関しては日本が最先端を行っている」みたいな意識、それこそ極めてマイノリティな意識を持った人が作ってるんだなと感じるのです。

「だって、日本にはマクロスガンダムがあるだろ?」ってマジで言ってくるようなノリで。

オンラインゲームで海外の人と遊んでると、自分が日本人ってわかると「どんなアニメが好きだ?」とか「今度日本の秋葉原に行くんだがアーケードゲームの基盤売ってるとこ教えてくれ」とか、妙に興味を持たれることがあるんですけど、その時の気恥ずかしい嬉しさとなんか似てるんですよね。本作の感じって。

昔あっちにホームステイしてた時も、剣道やってるってだけで畏敬のまなざしを向けられたって時とも同じで。

ただ、後でそのうちの子から『KENPO』っていうカンフー映画を観せられた挙句、「キミはどんなケンポーの使い手なんだ?」って聞かれたので、完全に勘違いされていると気づきましたが。「ノ…ノー、ケンドーイズサムライスピリッツ、オーケー?」とか適当な返しをしましたが。なんかそんな感じなんですよこの映画。

いやしかし、ATOMのチート性能に関しては突っ込むのは野暮なんですかね。

真面目に“資本力と技術力で勝負”してる方が馬鹿らしくなってくるじゃないっすか。ロボット同士の闘いなんだからカネと技術の勝負になるのは間違いじゃないよね。でも、ATOMのアレはどう見てもチートでしょう。どうしろっていうのよアレ。中にセガールドニー・イェン入ってるでしょアレ。かわいそうだよ敵が。

てか、一番おかしいのは硬さだよ硬さ。何でできてんだよ。ガンダリウム合金かよ。

そのへんの掘り下げは一切なく、単に人間の動きをトレースする機能がついた“そしてひたすら硬い”旧型ロボットが、少年の愛とその親父のボクシングセンスだけでてっぺんを取っちゃうって話なので、その物凄いご都合主義だけ気にならないのであれば、近年まれに見る“胸アツ”な作品です。個人的には大好きです。