『放送禁止 劇場版2 ニッポンの大家族』
2009年公開のカナダ映画?ベロニカ・アディソン監督?
かつて深夜枠で放送され、シャレが通じない一般視聴者からのクレームが相次いだというフェイクドキュメンタリー『放送禁止』シリーズの最新版にして劇場版。今回は、カナダの映像作家、ベロニカ・アディソン(代表作『アリゾナの子ら』、『サハラおじさん』)が企画・監督を務め…って時点でもはやフェイクなんですね。
早速ぐぐってみたけど、そんな映像作家いねーじゃねーかよ。
「大家族」は、テレビ版の『放送禁止2』でやったネタで、個人的にはシリーズ中でも一番好きなストーリーだったんですけど。そもそも劇場版て何?俳優変えて焼きなおした最近よくある「新訳」ってヤツ?って思ってあんまり期待してなかったんですが。なんと、俳優そのまんまで続編とか。なんという発想力…。
しかも、カナダ人の女性ジャーナリストが撮った「海外ドキュメンタリー風」という超変化球。
ドキュメンタリーという表現手法は変わらないまでも、その作家視点が外国人であり、通訳の人が入り、映像には全て英語字幕がつき、時折日本特有の文化を説明するナレーションが入るだけで、シリーズ特有の冷笑的ともいえるスタンスにしっかりマッチするんですね。これはドキュメンタリーの歴史を変える発明だと思います。
例えば、大家族長男の紹介シーン。ナレーションは英語で、日本語字幕がつきます。
「長男の豪殻さん23歳。幼い頃から野球選手に憧れ、ニューヨーク・ヤンキースMr.Matsuiのようなスラッガーを目指していたのですが、高校二年生の頃、突然グレで学校に行かなくなってしまいました。」
(画面には、金髪で学ランの前を開けて金属バットを持った、当時の豪殻さんの写真が写され。)
「このような若者のことを、日本では"ヤンキース"と言います。」
惜しい!惜しいけど全然違う!ベロニカさん最高!ラーメンズの「日本の形」みたい。映像とナレーションは終始この調子でボケまくりですが、撮影姿勢は旧シリーズと変わらず至って真面目。どこにでもある日本の家族を明るくお伝えしていきます。家庭内暴力や、ひきこもりなど、どこにでもある日本の家族の問題も含めて。
そして、シリーズ特有の謎解き要素。映像に隠された真のストーリーも今回は特に逸品。
冒頭、長男の部屋の前に張られた習字で「バット一発」と「十三振だ」に隠されたキーワード。「バット一発、父さん死んだ。」といきなりテレビ版のネタバレ。それが原因で長男は精神を病んでしまったんでしょうが、それもほんのジャブ。映像のあらゆる場面、登場人物の台詞や表情、BGMにまで真実に至るヒントが隠されています。
とかいう、物語の解析や考察は、ぐぐればいくらでもある専門のサイトにお任せしておくとして…。
今回の作品の何かすごいかって、その隠された真実のストーリーが、新しいお父さん(前のお父さんは7年前に失踪)による「家族愛の力」によってねじ曲げられていくのがわかるんですよね。途中までテレビ版と似たような展開をしていく中、家族の中で何かが変わり始めて、そして衝撃のラスト…。すみません、正直読めなかった…。
副題「Saiko! The Large family」に秘められた物凄いブラックジョークにも最後に気づきました。
つまり、そのひとネタをやりたいがためのベロニカだったんですね。単に外人ギャグとしてのベロニカじゃなかったんです。そういう意味でも、脚本の仕事の細やかさ、丁寧さに脱帽です。ニッポンの大家族、たしかにサイコーすぐる。これは、サイコスリラーとかホラー、ミステリー好きの人には是非観てもらいたい作品です。
どうせなら、テレビ版の『放送禁止2』と併せて視聴ください。このシリーズどっから観てもいいんで。