てすかとりぽか

最近はポケモンのことを書く場所です。

『カールじいさんの空飛ぶ家』 死臭

この映画、死臭がする。

カールじいさんの空飛ぶ家

2009年公開のアメリカ製3Dアニメ映画。

かつて、『となりのトトロ』や『崖の上のポニョ』で感じた“死臭”をこの作品にも感じました。

途中から「もしかしたら、この人たちはもう死んでるんじゃないんだろうか?」という疑いと不安が湧き上がってくるのです。その理由の一つとして、この物語の序盤の物語がロマンとリアリティに溢れた描かれ方をしているのに対し、以降の物語があまりに荒唐無稽で、お粗末なものに感じられる点があげられます。

ネタバレしつつも、そのストーリーを軽く説明させていただきます。

妻に先立たれた孤独な老人カール。子供にも恵まれず、妻との思い出がつまったその住処も地上げに遭う最中、ひょんなことから傷害事件を起こし法廷へ、“危険人物”と認定されて老人ホームに強制収容されてしまうことに。『グラン・トリノ』もかくやと想われるこの物語序盤のヒューマンドラマがいきなり涙を誘います。

しかし、じいさん只では終わらない。家に風船を括り付け、妻の夢だった南アフリカへ旅立つ!!

風船は、専門家が実際計算した“家一軒飛ばすのに必要な数”の1000分の1である2万622個が正確に描かれているという。この圧倒的なリアリティへのこだわり!そして唖然とする地上げ屋たちを目下に旅立っていくじいさんのカタルシス!!これぞ映画!!もうこれで十分だよ!!終わってもいいよ!!

本当にこれで終わってたら良かったのに…。

空の旅路でひどい嵐に遭うじいさん。「よかった、死んじゃったのかと思った。」という声に目を覚ますと、既にそこは目指していた南アメリカの秘境。なんでも一緒に来ちゃった駄目ガキが操縦してここまで飛ばしたのだと言う。一人じゃテントも満足に貼れない駄目ガキが、目的地も知らずにですよ!?

あまりの予定調和すぎる展開に、「これはもう死後の世界だなー。」と思わざるを得ません。

さらに、ここから先の物語に出てくるのは、人語を介する巨大な怪鳥やら、しゃべる犬、極めつけはじいさんとその妻が憧れていたかつての探検家。この探検家は、じいさんたちにわずか数分で懐いた怪鳥を、もう何十年も探し続けて、姿すら見ていないので、一緒に探してほしいとか言う。正直、なんだこのひどい展開笑。

あーこりゃ、完璧に彼岸にきちゃったなあー。此岸の話の時のロマンとリアリティはどこへやら…。

シナリオ書いてた時にあったんですけど、序盤と結末だけプロットが決まっていて、あとはその間の話をどうでっちあげるかって状況で生まれる駄目な話の典型みたいな感じですね。おそらく、プロットはじいさんの家が飛び、最後は無事ハッピーエンドというのしかなくて。脚本家はその間の話をでっちあげたのだなーと。

結果的に、全体としてまとまり悪く、こんな“タナトスの香り”がするお話になっちゃったんじゃないのかと。

その上、台詞の中にも「死んでしまった」とか「死んでも」とか、妙に「死」という単語が繰り替えされるのも気になります。序盤の妻の死は“無声”で描かれていて非常に美しく感じたのに、以降の台詞回しの美しくなさときたら。ていうか、後半完全にハリウッド的アクション映画になっちゃうんですけど?飛行船の上で殴り合いとか笑。

てか、じいさんッ!!探検家を飛行船からつき落として殺しちゃったんですけど…!?

このシーンだけは、さすがに目を疑いました。てか、「この人殺しちゃっていいの?」と。少なくとも、孤独と人間への憎悪が彼を変えてしまったのは確かなんですけど、彼と亡き妻にとっては憧れの存在だったわけで…。そもそも、彼の存在がなかったら、空飛ぶ家も造らなかったし、秘境も目指さなかったわけでしょう…?

何より、子供向けアニメ作品で、こんな残酷な人間の殺し方を見せて平気なわけ???

ギース・ハワードよろしく飛行船から落ちてゆく探検家。到底助からないとは思いますが、ちょっとワンカット「木の枝にひっかかって助かるシーン」を入れるだけで、行為の暴力性はぐっと抑えられると思うのに、ソレをしない。そのまま「良かったねー」と言いながらハッピーエンドのラストシーンに突入してしまいます。

ヨカネーヨ!!『特攻野郎Aチーム』だって、必ず敵が死んでないように魅せるんだヨ!!

コミカルな3DCGによる描写が一層そのシーンの残酷さを浮き彫りにし、落ちていく探検家の表情だけが自分の頭から消えません。そして、想起される彼の死にざまの数々。“9.11でビルから落ちてくる被災者”よろしく地面に叩きつけられ、さらに数メートルもの高さまで何度もバウンドを繰り返し骨格ごと変型していく彼の姿。

そもそも、南米のジャングルのど真ん中だし。むしろ、即死した方が楽に死ねるのかも。

木に引っ掛かったまま降りられず、“もずのはやにえ”状態のまま怪鳥に食されるか、それとも餓えと渇きに苛まれながら緩慢な死を迎えるか。運よく地上に下りられたとして、その運命は大きく変わりはしない。ただ、探検家として認められたかっただけなのに、畜生あのじじい…。なんで俺がこんなッ!畜生ッ!!

そんな探検家の人生の顛末と想いを考えたら、この映画を好評価することなんてとてもできません…。

なんというか、「異なる人種、異なる思想、異なる宗教を持ってる奴らは殺してもいい。」っていう、非常にクラシックなアメリカイズムを見せられているような気分でした。たぶん、子供だったらそんなこと気にせず楽しめる作品でしょうけど、そんなことが気にならない感受性の乏しい大人には育ってほしくないです。

だもんで、総評としては“子供が観るなら面白いかもだけど、子供には観せたくない作品”です。