てすかとりぽか

最近はポケモンのことを書く場所です。

『ブラックスワン』 ネタバレなし

“観客席全体が震える”っていうの初めて体感しました…。
あと、ネタバレなしで感想書けますねこれ。

ブラックスワン

2010年のアメリカ映画。ダーレン・アロノフスキー監督。

“想定外”って言葉が最近流行してますけど、本作に関してはまさにソレ。ただ、ストーリーに関する部分じゃなくって、“映像演出”の部分とでもいいましょうか…。兎に角、「えっ!ソッチ方面の作品なの!?」と気づいた時には既に遅し。完全にソッチ方面の作品としては珠玉の恐怖のどん底に陥れられてます。

「あ、ナタリー・ポートマンが出てるバレエをテーマにしたオサレ芸術映画なんだわ!」

ってノリで観にいく人が多そうですけど、正直そういう思いで観に行くのは本当によしたほうがいいです。うっかり何かしかのトラウマを抱えかねないです。カップルで来てる人も多かったみたいですけど、彼女の前でみっともなくガクガクブルブル震える姿を晒したくない男子は、別の作品を選んだほうがいいでしょう。

「いや、わかってるって。人間関係がドロドロして怖いサイコサスペンスな話なんでしょ?」

それは半分当たり。実際、TVCMを素直に読み取れば、だいたいどんなストーリーなのかも予測できると思います。(だからこそ、ネタバレして書く意味もあんまりないわけですけど。)ただ、そういう人間の経験やシチュエーションを想像することにより生まれる不快感とは、全く質の異なる恐怖を本作は魅せてくれるのです。

“とにかく、スクリーンに映し出される映像が反射的に怖い”という作品なんです。

多くの映画における恐怖は、映像を観て「痛そう!」と思うなり、登場人物に自身を投影させて「厭だなあ…」と思ったりする、即ち意識下の感情なんですけど。時折なんだかよくわからないけど、頭で考えるより先に体が反応して感じる恐怖ってあるんですよね。本作の凄みはまさにその恐怖がみっちり味わえることに尽きます。

もう、その映像が出た瞬間に、「ビクッ」って腰が椅子から跳ね上がるんですよ。

その現象が、ほぼ満員だった新宿バルト9の数百席で起こるとどうなるかっていうと、劇場全体の椅子というか床全体が「ブルブルブルッ…」って震えるんですよ。これはもう、完全に体感アクションムービーの類です。しかも、ホラー映画で言う「来るぞ…来る来る…」って“タメ”の配慮もちゃんとあった上でですよ。

本作の演出家は、“人間が反射的に感じる原初的な恐怖”というものを知りつくしてるんですね。

個人的に劇場や家で映画を観てて、こういう体験をしたのってほんと『ペットセメタリー』と『リング』(あと『ほん呪』)くらいです。ソレらは本当に“反射的な恐怖”を魅せるのがうまいなあと、何度も観なおして研究したものです。正直、初見でこの手の恐怖は回避不能だと思いますよ。よほどの“不感症”でなければですが。

しかも、そういうシーンが結構いきなり来るんですよね。ぶったまげました。

とてもソッチ方面の映画だとは思えないような作りとして途中まで魅せておいて、いきなりドーンと来ました。だって冒頭からもう撮影の手法もカメラワークも凝っていていかにも芸術作品ってノリだし。バレエ団やソリストたちへのズームアップの仕方も非常にリアルで、ドキュメンタリー映画のようにも見えちゃうし。

例えば、序盤バレエシューズを履くあたりの見せ方も、「ああ、バレエって華やかな世界に見えるけど、バレエシューズとか良くみるとキッタナイし、怪我しないようヤスリで削ったりなんかの粉つけたり、実は泥くさい世界なんだなあ…」とか。「たぶんアレ、剣道の小手とおんなじニオイがするんだろうなあ…」とか。

「たまに、剣道の小手と同じニオイがしてるラーメン屋があるけど、入れないよ。怖くて…」とか。

まとめると、ストーリー的にも、サイコサスペンス的な部分としても個人的には“想定内”だったんですけど。「実は映像演出の妙による反射的な恐怖で畳み掛けてくる作品だった!」という意味ではまさに“想定外”ということです。その恐怖たるや、そこらのスプラッター映画では到底たどり着けない境地にあります。

あと最後に『ブラックスワン』というタイトルに関して思ったこと。

たぶん、ナシーム・ニコラス・タレブによる“同名の”著書にある、「ブラックスワン理論」にもかけられてるんじゃないかなと。確率論や従来からの知識・経験からでは予測できない極端な現象が発生し、その現象が人々に多大な影響を与えること、要するに“想定外”なできごとに対するリスクヘッジのお話なんですけど。

いや、いくら黒鳥の話だからって、ここまで演出がドス黒いとは思わなかったけどマジ個人的に最高の映画!!